認知症

軽度認知障害と認知症について

認知機能(記憶力や計画実行力など)に衰えが出てきているけれども一見すると普通に暮らせている状態を軽度認知障害と呼びます。軽度認知障害の多くは適切な治療によって健康な状態に回復することが出来ます。認知機能が普通の生活に影響するほどに低下している状態が認知症です。軽度認知障害も認知症も、できるだけ早くに発見し、適切に治療を開始することが大切です。

主な認知症の特徴について

認知症機能が低下する原因にはアルツハイマー病、レビー小体病、脳血管障害などとてもたくさんの原因があります。特に高齢者では複数の原因が併存していることが一般的なので、治療も同時並行して進める必要があります。認知症は原因や症状の特徴によって様々な病型に分類されます。

アルツハイマー型認知症

初期症状としては「いつ」「どこで」といった事柄についての物忘れが特徴的です。脳内にアミロイドベータという物質が蓄積して脳神経細胞が脱落していくアルツハイマー病が原因ですが、併存する脳梗塞や脳出血が病状悪化を加速させていることが多いです。進行期にはMRIによって特徴的な脳萎縮が明らかになりますが、脳脊髄液検査や脳血流シンチグラフィ(SPECT)によってより早期に異常を見出すことが可能です。早期の開始によってアルツハイマー病の進行自体を抑制できる薬剤の開発が盛んに進んでいるため、脳萎縮が進む前の診断が重要となります。

レビー小体型認知症

顕微鏡で脳内を観察するとレビー小体という物質が認められる「レビー小体病」が原因となる認知症。便秘、うつ症状、嗅覚鈍麻、誰かに話しているかのように明瞭な寝言、低血圧などの症状が数年続いた後に、考えるスピードが遅くなる、急に寝ぼけたような状態になる、幻覚(他の人には見えない人物が見える、存在を確信する、など)などの認知症症状が明らかとなってきます。レビー小体病の運動障害が目立つタイプをパーキンソン病と呼び、レビー小体型認知症もパーキンソン病も進行期には共通の状態となります。特徴的な症状から診断されますが、検査ではMIBG心筋シンチグラフィー、脳血流シンチグラフィー、線条体シンチグラフィー、脳波などが参考となります。

血管性認知症

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因となります。多くは脳血管障害の再発が繰り返されることで認知症になっていきますが、一回の小さな脳梗塞だけで認知症になってしまうこともあります。多くの脳血管障害は再発予防が可能であり、頭部MRIや脳血流シンチグラフィー、頸動脈エコーなどを組み合わせて治療方針を決定します。

当院で実施している主な精密検査

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症をはじめとするさまざまな認知症の診断や治療方針決定のために大切なのは詳しい問診や身体診察であり、当科ではこれらを専門医が行っております。また必要に応じて、以下のような精密検査を行うことも出来ます。脳神経以外の問題が見つかった場合には当科以外の各専門科と連携して診療を進めております。

認知機能検査

記憶、計算、言語機能、順序立てて作業を進めることが出来るか、といった、日常生活に必要となるさまざまな脳機能を詳しく調べることができます。認知機能の詳しい評価によって、認知症のどのタイプなのかが推測されます。

頭部MRI

脳の疾患が疑われた際に行う最も基本的な検査の一つで脳萎縮や脳血管障害の有無などが分かります。MRIでは認知機能の低下の有無や認知症か否かは判断できませんが、認知機能低下の原因が推測できます。見た目では認めることが困難な程のわずかな萎縮を検出するための統計学的分析も導入しています。健康上の理由などによりMRI検査が受けられない患者さんではCT検査を行うことがあります。

脳波

脳波は主にてんかんの検出に用いられます。てんかんは特に高齢者において高頻度であり、認知機能低下の原因としても重要です。レビー小体型認知症やある種の代謝性疾患による認知症の診断にも有用です。

脳血流シンチグラフィー(脳血流SPECT)

活発に活動している脳の部位に取り込まれる特殊なお薬を注射して脳画像を撮ります。MRI画像と組み合わせることで、脳の中に起こっている異常を早期に検出することが可能です。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、てんかんなどにおいて多くの情報を得ることが出来ます。

MIBG心筋シンチグラフィー

心臓の交感神経に取り込まれる特殊なお薬を注射して胸部を撮影します。レビー小体病(パーキンソン病やレビー小体型認知症)において特徴となる心臓の異常を検出します。

線条体シンチグラフィー

脳の中のドパミン神経に取り込まれる特殊なお薬を注射して脳の画像を撮ります。パーキンソン病に関する情報が得られます。

脳脊髄液検査

脳で作られ腰へ流れてくる脳脊髄液を血液検査に用いられるような細い注射針を使って採取します。通院で実施可能です。アルツハイマー病におけるアミロイドベータやリン酸化タウ蛋白の蓄積状況や、認知機能に影響する感染症や脳炎についての情報が得られます。水頭症では脳脊髄液を排液することで症状改善が得られるため診断と治療を兼ねた検査となります。

血液検査

認知機能の低下が脳自体の病気ではなく、身体の他の部位に潜在するがんやホルモン異常などによることも少なくありません。こうした認知機能低下では原因に対する適切な治療によって大きな改善が期待できます。見つかった異常については必要に応じて当院内の専門科と連携しながら治療を進めていきます。

当科の認知症診察について

現在、認知症に対する新しい治療法の開発が大きく進んでいます。認知症の前段階である軽度認知障害であれば多くの場合で適切な治療によって健康状態へ回復させることが可能ですし、認知症の状態となってからも適切な時期に治療を開始することで病状の悪化を引き下げ予防することが可能です。やはり適切な対応のためには正確な診断をなるべく早くつけることが大切です。脳について詳しく調べるのは少し怖いと感じるかも知れませんが、当科では日本内科学会総合内科専門医と日本神経学会専門医の資格を持った日本認知症予防学会専門医、日本認知症専門医が在籍しており日本認知症学会認定教育施設にも認定されております。診断から治療、介護上の相談事まで、多職種で皆さんを支えていきます。認知機能について気がかりを感じたら、我慢せずにかかりつけ医の先生へご相談いただき、安心して当科をご利用下さい。

  

アルツハイマー病に対するレカネマブ(レケンビ®)治療について

2023年末に、アルツハイマー病による軽度認知障害や認知症の原因と考えられる脳内に蓄積するアミロイドベータという物質を除去する新しい薬剤としてレカネマブ(レケンビ®)が登場しました。この薬剤ではアルツハイマー病の進行をゆっくりにする効果が期待出来ますが、副作用などの面から、厳格に定められた条件をクリアした方だけが使用することが可能です。2週間毎に通院して頂き、1時間の点滴を1年半ほど継続します。治療継続中は脳出血や脳浮腫などの副作用に細心の注意が必要です。
当院では厚生労働省の定める「最適使用推進ガイドライン」に沿ってレカネマブ治療を行っております。代表的副作用である「アミロイド関連画像異常(ARIA)」に関連した脳出血や脳浮腫に対しても、当院救命救急センターにて24時間対応できる体制としています。またさまざまな事情でレカネマブ治療を選択されない方でも、その方に適した治療法を提案させて頂いておりますので、安心して当科をご利用下さい。